熱帯夜、少女の歌声すずやかに〜前略、国際通りより〜


国際通りを、とぼとぼと歩いていた。
 
ガーブ川商店街にある事務所からの帰り道、時間は夜の8時を過ぎ、
似たり寄ったりの土産屋の照明が、歩道を照らし始めていた。
 
「コウヘイさん!」
 
誰かが自分の名前を呼んだ。
空耳かと振り向くと、昔世話になったマネージメント会社の社長がそこにいた。
 
聞くと、売り出し中の女の子のストリートライブがこれから始まるところだという。
その子は18歳。メジャーデビューを目の前にしていた。
 
国際通りにある楽器屋の前では、
売り出し中のアーティストの、ストリートライブを目にすることがまれにある。
 
ストリートライブがはじまった。
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女の子は、ちらりと社長の方を見てから、ギターを引き始める。
訴えるような声で、静かにそっと歌い始める。
 
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その顔は決して楽しそうだと思えなかったが、
不安と期待の間で、戦っていることを考えれば当たり前。
 
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(今、僕にできることは、写真をとにかくたくさん撮ることぐらいか。。)
 
自分は”さくら”と決め込み、下手クソなカメラを恥ずかしげもなく振りかざす。
序盤、場違いなフラッシュを炊いてしまったりして、とにかく振りかざす。
 
一人の女の子と、それを見守る二人の大人。
 
女の子は、自分に今できることを懸命にやっている。
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通りすがりの人は、皆どこかの有名人が歌ってるのかと思い、
チラチラ見たり、立ち止まって写真を撮ったり。
 
夢中でシャッターを押していると、なんだか人が邪魔でうまく写せない。
 
気づいたら、ちょっとした人だかりができ始めていた。
 
曲が終わると、まばらではあるが力強い拍手をもらう。
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僕の役目が終わったと感じ、社長に一言挨拶をして、その場を去った。
最後までいるべきだったかもなと、後ろ髪を引かれつつ。
 
でも、すぐに思い返した。
 
僕の経験によると、
まっすぐで温かく、本当の意味での知恵とプライドを持つ女性は、
少しぐらい勘違いしてても、周りの皆から応援される。
心配ご無用。
 
背中の方では、
少しハスキーな少女の声が、
再び熱帯夜の国際通りに、すずやかに響いていた。
 
 
豊嶋


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