※これはフィクションです。
その国には、犯罪者がいない。
いや犯罪が極端に少ない。
そしてそれどころか、国民の長寿と健康は世界トップを誇る。
政府は犯罪に対する刑罰を改めた。
それまでの刑罰は、懲役や死刑というものだった。
たくさんの税金を投入して、犯罪者を隔離した。
しかしそれは逆に言えば、国で犯罪者の生活を保証するということだった。
懲役を終えた犯罪者に、外での居場所はなく。
出所後は、また犯罪を犯し、刑務所に戻ってくるというのが関の山だった。
新たな刑罰。
それは、犯罪者を医療の人体実験に回すというものだった。
凶悪な犯罪者ほど、その貢献度合は高く設定された。
軽いものから投薬。新しい治療法の開発。部位提供。臓器提供。
犯罪者の命は、医療のために使われた。
誰も反対はしなかった。真に償うというのはそういうことだった。
親は子供に、犯罪を犯すとどうなるのかを教えた。
犯罪者はみるみる少なくなっていった。
その結果、医療は飛躍的に発展し、国民は長寿と健康を得た。
国は先進医療を国外へ輸出し、莫大な富を得た。
余った刑務所は、障害者のための入居施設となった。
国が補てんしたのは、障害者を持つ家族たちだった。
国の保証で、3食付きで仕事まであてがわれる。
中には特別な芸術の才能に目覚めるものもいた。
もちろん面会自由。出所も自由。
家族の苦労が軽減された。
その結果、介護ノイローゼによる痛ましい事件もなくなった。
今まで介護に回されていた時間は労働力となった。国力が上がった。
国民は国に、心から感謝した。国を愛した。
そして何よりも愛されたのは、正しい償い方と補い方を考え、
勇気を持ってそれを英断した国の首領だった。
犯罪者と障害者を子に持つ、その国の首領だった。
※これはフィクションです。
豊嶋浩平