そこは観光収入がメインの南の島。
島の西側は、大きな道路が通り、マンションや、ホテル、大型ショッピングセンターが立ち並んでいた。
どんどん開発が進み、新しい道路や建物の工事がひっきりなしに行われていた。
沈む夕日を眺めながらドライブするには、うってつけの美しい街だった。
一方、東側はというと、高層建築物はほとんどなく、開発も遅れ、空は大きいが、こじんまりしたビーチしかなかった。
東側の街の町長は、悩んでいた。
街の活性化のために、有名カフェやなんやら、外から新しいものを誘致し、どうにかして観光客を呼ぼうと思案していた。
街に多少の予算はあったのだが、大規模な開発を行うには不十分だった。
そこにある青年実業家がやってきた。
金はないが、アイデアだけはある企業だった。
その青年は言った。
「この街は、確かに西側より開発されていません。でも、そこがチャンスです。」
この企業が、まず手をつけたのが、民泊だった。
西側とは違い、ほとんどホテルのない東の街は、観光客が宿泊したくともするところがない。
ならばということで、空き家を利用し、民泊にした。
すでに実績のあった企業は、古い民家を生かし、情緒溢れる雰囲気の部屋を展開した。
ホテルに飽きてきていた観光客は、面白がった。
もう一つ手をつけたのは、ビーチでの屋台だった。
なぜだか西側の街では、どこにも「海の家」的なものがなく、あるといえば小さな売店ぐらいだった。
おそらく、ゴミや風紀の問題があったのだ。
それを逆手に取った。
ビーチにビーチチェアーを並べた。
ビーチ裏のバーベキューの東屋は、全て民間に貸し出した。
ゴミ処分と、警備を徹底した。
するとどうだろう、観光客は、朝となく夜となく、ビーチに集まりだした。
他の島からやってきた青年は知っていた。
わざわざ休暇をとってやってくる客が、南の島に求めているもの。
それは、非日常的空気。ビーチでボケーっとのんびり、カクテルでも飲みながら、その土地のものを食べる。清潔、安全。
それを素直に提供した。
近代化が進む西側の街が忘れてしまったものを、東の街は提供した。
それで西側とは全く別の色で、観光客を呼び込んでいった。
東の街では、確かに夕日が海に沈むのを見ることができない。
しかし、夜は月が昇るのを見ながら、ナイトパーティーができる。
朝は朝日が昇るのを眺めながら、モーニングができる。
青年はそういった、あるものを利用しただけだった。
東の街に小鳥のさえずりが聞こえ始める頃、青年は健康に感謝しつつ、ビーチをランニングする。
豊嶋浩平